心から感謝を感じられる自分になれたら、それほど楽しい人生はない 日本料理『山崎』店主・山﨑浩治

心から感謝を感じられる自分になれたら、それほど楽しい人生はない 日本料理『山崎』店主・山﨑浩治

 

2023年夏、「日本料理 山崎」は富山から東京・京橋に移転した。

「日本料理 山崎」といえば、北陸で唯一、ミシュラン三つ星を獲得した名店。三つ星は「そのために旅行する価値がある卓越した料理」がある店にしか与えられず、日本では20軒しか獲得していないという。

だが、店主の山﨑浩治さんは言う。
「大きな評価をいただくことはもちろん嬉しいです。でもそれが目標ではありません」。

故郷・富山で25年間の長きにわたってお客さまの「おいしい」を生きがいに、おもてなししてきた。さらにお客さまに喜んでいただける料理を探求するため、東京を新たなチャレンジの場に選んだ山﨑さんが大切にしている「料理人としての美学」を伺った。

 

▲山﨑浩治|やまざき こうじ
富山県生まれ。中学卒業後、地元の会席料理店で修業を積む。のちに東京・大阪の【日本料理 かが万】で研鑽を重ね、金沢を経て再び大阪へ。30歳で地元・富山に【日本料理 山崎】を開店し、富山・石川版『ミシュランガイド』で三つ星に輝く。25年の歳月を経て、満を持して東京・京橋に店を構える。

 

大通りを1本入った、小さな路地の中に「日本料理 山崎」はある。外観は黒とシルバーでスタイリッシュ。
だが、扉を開けたその先は、木の温もりと柔らかな光に包まれた「異世界」が広がっていた。

カウンター奥には稲穂で作られたお正月飾りが設えられている。伺ったのは11月初旬だったため不思議に感じたが、「お茶の世界では11月がお正月なんですよ」と山﨑さんが教えてくださった。
11月は新茶を茶壺から出して味わう「口切り」や「炉開き」が行われ、一年の始まりとして「茶人の正月」とも呼ばれているそうだ。

 

▲檜の一枚板のカウンターに8席という贅沢なつくり。料理人との距離を近くに感じる。

 


「美味しい料理」をゆったりと堪能できる、そんな空間を整える


▲料理を作っているとき、集中してしまうとお客さまの声が聞こえなくなってしまう。お客さまが質問したことと違うことを話しているときもあって、あとで女将に言われて気づくこともあるという。


カウンターのお店では料理人との会話もだが、料理人たちの動きや所作を目の当たりにできることもまた楽しみだ。

「『カウンターはライブ感がいい』ということをお客様に言われることはあります。でも『パフォーマンスをしてお客様に喜んでいただく』ということ以上に、料理やコースのバランスにいちばんふさわしい見せ方を考えています。

すべての料理工程を見せてしまうとしつこくなり過ぎる。裏で仕上げてパッと目の前に運ばれてくる驚きある料理と、ずっと工程を見ていて、料理人とのやりとりがあって出される熱々の料理とでは、感動の種類が違うと思います。そういうメリハリみたいなものも流れの中に組み込んでいます」。


「お腹が減ったから懐石料理を食べようと思う方はいませんよね」と山﨑さんは言う。

確かに空腹を満たす目的で懐石料理を選ぶことはないだろう。懐石料理のお店に足を運ぶのは、料理はもちろん、そこに流れる時間や空間を味わいたいときではないだろうか。

「ある程度ゆったりした場でリラックスした雰囲気を味わいながら『おいしいものを食べられて、いい店だったな』と感じていただけるような空間。お客さまがうちの店を選んでくださるときは、そういったことを望んでおられるのではないかと思っています。

だからカウンターでの料理の見せ方から、出し方、器やしつらえ、そして照明の明るさ、そういったものも全部ひっくるめて大事にしています。

 

▲現代数寄屋造りと照明の設計が洗練された店内は、山崎さんのセンスとおもてなしの精神を堪能できる。

おいしい料理を食べてもらうために献立を立てて、あとはどうお客さまにおいしくいただいてもらう場を作るかです。そこに必要なパーツをひとつずつ形にしていきます。
だから、ちょっとミスがあって調理場がばたばたしてしまうようなことがあったら、もちろん立て直しますけど、乱れてしまった空気に自分自身が納得できません」。

お客さまをおもてなしする空間を大事に整えることは、山﨑さんが富山で初めてお店を持ったときから意識していたことだった。でも当時はまだ分かっていなかった。ただ、分かったつもりになっていた、と今は感じているそうだ。


料理人が「いい仕事」であり続けるかどうかは自分次第 


▲山﨑さんは子供のころから「将来は料理人になりたい」と考えていた。両親にも「料理人に向いている」と言われていたそうだ。


「中学校を卒業してから料理の道に入ったときに、ご近所さんたちに『いい仕事しているね』と言われました。私は意味が分からなかったけど「料理人はいい仕事なんだ」と思っていたんです。料理人を続けているうちにその言葉の意味が少しずつ分かってきて、今は『つくづくいい仕事だ』と思います。

『おいしかった』という言葉や料理を口に入れてぱっと華やぐ表情。もっと嬉しいのは「感動しました」と言っていただいたとき。
そういう言葉をいただけるのが嬉しくて、それが生きがいになっています。
だから『料理の道は厳しい』と言われても、自分はあまりそう思っていません」。

 

山﨑さんは料理人として生きていくことを、厳しいというより、楽しいと感じている。
もしかしたら子供のころから変わらず料理人を「いい仕事」として輝かせ続けたのは、山﨑さん自身なのかもしれない。

「仕事にどういうふうに取り組んで、自分と向き合いながら、毎日を過ごすかによって、仕事はいいものにもそうでないものにもなりうると思います。日々、自分がどれだけ自分に対して自信をつけていくか。それは料理だけではなくて、人間としての厚みという意味も含みます。

人に感動してもらうには、自分に深みがないと難しい。誰かを感動させられる人間でありたいと挑み続けられるから、料理人は『いい仕事』なんだと思います」。


「甘み×甘み」が醸し出す深みの妙

 ▲「おいしい料理」と「おいしいお酒」は、ちょうどいいバランスで存在しなければいけない。どちらか一方が優れていても調和がとれていないと、お互いのいいところを引き出せないからだ。


今回、山﨑さんに「TAKANOME 海底熟成 至然(しぜん)2025 Edition」をご試飲いただき、お酒に合う一品を作っていただいた。

「『海底熟成 至然』は女性に人気が出そうな味ですね。どちらかと言うと甘口ですが、すっきりとした口当たりです。定番の『鷹ノ目』はそれに比べるときりっとしています。どちらも食事とともに飲むのもいいですが、とくに『TAKANOME 海底熟成 至然』は甘めでくせがないので食前酒としていただくのもいいですね」。

ペアリングに作っていただいた料理は「里芋と里芋みそ」。蒸した里芋を炭火であぶって焼き色をつけ、八丁味噌と里芋を合わせた田楽味噌とともにいただく一品だ。

「田楽味噌の甘さと『TAKANOME 海底熟成 至然(しぜん)』の甘さ、同じ甘さでもそれぞれ味わいは違います。この2つの甘みを掛け合わせようと、すぐにインスピレーションが沸きました。もってこいだと思ったんです」

お酒と料理をペアリングすると自然に溶け込んで、すっと喉を通っていく。 


▲里芋からは柚子の香りがほのかに立ち上る。添えられているのは菊菜。こちらも味噌とよく合う。丸いお皿は里芋チップス。蒸してねっとりとした里芋と、ぱりぱりしたチップス、同じ食材から生まれたとは思えないほど食感も味わいも違う。


料理人だから味わえる「小さな幸せ」


▲富山には頻繁に帰っているから懐かしいという感覚はない。それでも離れて初めて自然の美しさと、料理の味が富山のおいしい井戸水に支えられていたことに気づいた。


東京には富山とはレベルが違うくらいビジネスで成功している人がいる。山﨑さんが東京に来て実感したことだ。それをすごいとは思う。そして料理人として商売していくうえでお金は大事だ。

「でもそこをいちばんに求めてしまうのは、自分は違うと思います。お金をいちばんに考えるなら、最初から料理人ではなくて、そういう内容の仕事をするべきです」と語る。

いい評価をされることは嬉しい。でも、あまりそういうことを意識せず、「来られるお客さまが喜んで帰っていただける」という、料理人の基本、大切にしなければいけないことを追求している。

「お客さまにお店に来ていただいただけでありがたい。そして『おいしい』と言ってもらえて、お金まで払っていただいて、なんて幸せなんだろうって思います。それは料理人だから味わえる『小さい幸せ』です。

朝、目が覚めたときから寝るときまで、『小さい幸せ』を積み重ねていくことに喜びを見い出す自分、感謝できる人間になりたい。私はまだまだですから、そうなれるまではなかなか遠いです。でも、もし、なれたとしたら、それほど楽しい人生はないのではないかと思います」。

16歳のときから料理人として生きてきて、まだまだ理想ははるか先にあると言う。
山﨑さんはどこまでストイックに自分の料理を追い求めていくのだろうか。

その朴訥(ぼくとつ)な語り口調と穏やかな笑顔からは窺い知れない情熱が、山﨑さんには秘められている。

これからも山﨑さんの作り出す料理と空間の進化から、目が離せない。

 

日本料理 山﨑

 

  • 住所:東京都中央区京橋2-6-7 京橋プレイス
  • 営業日:月・火・水・木・金
  • 営業時間:11:30 - 13:30(L.O. 13:30)/18:00 - 23:00
  • 定休日:土・日

ランチはご予約なしでもご案内可能でございます。
ディナーは18時と20時30分開始で2部制とさせていただきます。事前にご予約をお願いいたします。

TEL:050-3138-2600
Instagram:nihonryori_yamazaki

 

 

TAKANOME 海底熟成 至然(しぜん)
2025 Edition

海底が育てたまろやかさと、食が導く新たな香味体験。
「TAKANOME 海底熟成 至然 2025 Edition」と料理の至高の調和をお楽しみください。

 

<販売スケジュール>

■発売日時:2025年12月上旬予定
■価格:¥39,600(税込・送料込) 
■アルコール度数:16% 
■内容量:720ml  
■製造元:はつもみぢ(山口県)

■海底熟成特設ページはこちら

※販売日は鷹ノ目公式LINEにてご案内いたします
※ 全ての商品に「鷹ノ目 180ml」が付属します
※精米歩合は非公開です

 

鷹ノ目の信念である「うまさのみの追求」。
海底熟成プロジェクトにおいて「うまさの探究」に終わりはない。
全ての生命の起源である「海」が吹き込んだ唯一無二の味わいを、ご堪能ください。

 


Text: Mari Hayakawa
Photo: Shosei Seike
Composition: Sachika Nagakane

 

 

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