芸術品にまで研ぎ澄まされた日本酒が世界の市場を創る/「TAKANOME海底熟成 禄」とソムリエ 田邉 公一×日本酒ライター関 友美

芸術品にまで研ぎ澄まされた日本酒が世界の市場を創る/「TAKANOME海底熟成 禄」とソムリエ 田邉 公一×日本酒ライター関 友美

日本酒の魅力とは何か。その心を掴んで離さない味わい、そして日本という国を象徴する酒『日本酒』が世界に提供できる価値とは。日本酒ライターの関友美氏が、ソムリエの田邊公一氏と共に、その深遠な魅力を探る。

 

田邉 公一(たなべ こういち)ソムリエ歴20年以上を誇るワインディレクター。山口県出身。大学卒業後、レストランバーで経験を積み、「神戸北野クラブ」や「セントジョージ芦屋」などの名店で活躍。東京「ザ・リッツ・カールトン」ではオープンメンバーとして参加し、ソムリエとしての腕を磨く。数々のソムリエコンクールで入賞し、2007年には「キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト」で優勝。その後は企業のワインや飲料の監修を手がけ、ワインおよび日本酒のセミナー講師としても活動。2019年にはSAKE DIPLOMAコンクールで全国セミファイナリストに選出。2023年に株式会社WSを設立し、初の著書『ワインを楽しむ』を出版。自身の日本酒ブランドもプロデュースし、SNSフォロワーは5.5万人を超える。現在も幅広い層に飲食の魅力を伝える活動を続けている。

 

 

関 友美(せき ともみ)日本酒ライター、唎酒師。会社員時代に日本酒と出会い、その魅力に惹かれ日本酒BARでの副業を開始。2015年から日本酒ライターとして活動を始め、翌年フリーランスとして独立。執筆活動に加え、日本酒バーや小料理店で女将を務め、店づくりにも携わる。2018年から2024年にかけて兵庫県の酒蔵で酒造りや経営に従事し、現在は「日本酒のなんでも屋」として取材執筆、町おこしアドバイザー、酒蔵コンサルタントとして幅広い活動を行っている。

 

日本のテロワールを考えれば、日本酒に行きつくのは当然だった

 

 

関: 四六時中、日本酒について考えている私と違い、田邊さんはワインのプロとして長年ご活躍されています。それにも関わらず、日本酒イベントを毎月開催し、試験対策の講師もされていますよね。今年はご自身がプロデュースした日本酒もリリースされました。なぜそこまで日本酒に惹かれるようになったのですか?

 

田邉: 2005年頃、神戸でソムリエをしていた時に、田崎真也さんが「日本人のソムリエなら日本酒を知らなければならない」と発信されていたことが、日本酒を学ぶきっかけでした。ソムリエコンクールのためでしたが、世界各国の人々が自国の酒を誇りに思っていることを知り、日本酒への共感が次第に強くなっていきました。

 

関: 田崎真也さんは、ソムリエ試験に日本酒を取り入れ、SAKE DIPLOMAを立ち上げるなど、大きな影響を与えましたね。田邊さんは、最初から日本酒が好きだったのですか?

 

田邉: 当時、日本酒は「酔うための酒」という印象があり、特に良いものとは思っていませんでしたが、酒処である兵庫に住んでいたこともあり、地元の酒蔵を訪れるようになりました。そして改めて日本酒を飲んでみると、その美味しさに驚かされました。日本のテロワールに基づいた酒造り――豊富な良質の水と、それに適した米からできた日本酒は、まさに「日本」を象徴する酒です。世界が憧れるにふさわしい飲み物だと思うようになりました。

 

世界に誇れる日本酒~「現実」を表現しブランドへと昇華する

 

 

田邉: 海外出張では、他国のソムリエから日本酒に関する質問をよく受けます。「この日本酒を置いているがどう思う?」と写真を見せられることも。今、日本は元気がないと言われることもありますが、日本酒には大きな可能性を感じています。

 

関: 日本酒は約2,000年の歴史を持ち、現在のようなクリアな液体に進化してから300350年ほど経過しました。長い年月をかけて培われた技術にもかかわらず、日本人は奥ゆかしく、その価値を十分にアピールしてきませんでした。しかし、最近ではワイン業界の影響を受け、日本酒の特別性が見直されつつあります。

 

 

田邉: その通りです。「TAKANOME」や私のような外部の人々が日本酒の魅力に気づき、参入することも大きな転換点です。日本酒は本来の価値を取り戻そうとしています。ワインも同じで、価格や味だけでなく、家族経営の伝統や水の特別さ、製造工程のこだわりといったストーリーが重要です。クリュッグのようにアッサンブラージュが行われる場合も、その背景や手法の理由が価値を生み出します。これが「ブランド」の完成につながります。

 

関: 美味しさの追求だけでは「ブランド」にはなりません。言葉やデザインを通じてどう伝えるかが本質です。酒蔵は今、存在意義を再定義する時期にあると感じます。

 

田邉: 手頃な商品も大切ですが、スーパートスカーナのようにスター商品が業界を引っ張ることが重要です。価格が高くても、それに見合う価値を持つ特別な日本酒が必要です。

日本酒はシャンパンとよく似ています。製法や職人技、芸術的なアプローチなど共通点が多いです。また、消費者は単一の商品を求めるのではなく、メゾン(製造所)への信頼から商品を選ぶようになっています。挑戦する酒蔵も増え、世界的に高評価を得ているため、今後の可能性は非常に大きいと感じています。

 

関: 酒蔵も世界のワイナリーを参考に、原料米の見直しや農業への取り組みを始めています。また、観光対応の酒蔵改修やブランドの再定義、商品ラインナップの刷新など、多様な動きが進んでいます。酒蔵は「売れるもの」ではなく、次世代に残すべきものを再構築している段階です。

 

「TAKANOME海底熟成 禄」とフラッグシップ

 

TAKANOME海底熟成 禄」は、フラッグシップ銘柄「TAKANOME」を海底で半年間熟成させた特別な一本である。熟成場所は、多様なサンゴや魚が泳ぐことで「奇跡のビーチ」と称される、エメラルドグリーンの美しい静岡県南伊豆・ヒリゾ浜。

6月から11月という温度変化の少ない穏やかな環境で、生酒は静かに次の段階へと進化していく。「TAKANOME」と「TAKANOME海底熟成 禄」をワインと日本酒のプロがテイスティングし、その深い魅力について語った。

 

田邉: 「TAKANOME」は、カプロン酸エチルがしっかりと感じられる吟醸系の酒です。非常にアロマティックで、黄りんごやメロン、バナナといったフルーツがメインの香りです。特にパイナップルのようなトロピカルなニュアンスが印象的ですね。口に含むと、軽やかで滑らかなテクスチャーが広がり、米の旨みが凝縮されています。フルーツと花のフレーバーが余韻まで持続する、非常に洗練された酒です。

 

関: 「TAKANOME」は、非常に華やかな香りがあり、且つ旨味もしっかりと感じられますね。味わいにインパクトがあり、日本酒に不慣れな方でも、ひと口飲めば「美味しい」と直感的に感じられるでしょう。

 

田邉: 「TAKANOME海底熟成 禄」は元が同じお酒だとは思えません! 潮や鉱物的なニュアンスが強く感じられます。フルーツの香りは控えめですが、グレープフルーツや和梨がベースにあり、熟成によるスモーキーな香りが特徴的です。しかし、メイラード反応は起きていないため、色はクリアなままで、キャラメルのような味わいはありません。味わいは非常に丸く、米の旨みがしっかりと感じられます。

 

 

関: 田邉さんのおっしゃる通り、先ほどの「TAKANOME」と同じ酒だとは信じられません。驚くほど味わいが違いますね! 熟成香があり、落ち着きが感じられる大人の味わいで、しっとりとした深みがあります。

 

世界に羽ばたくための食事とのペアリング、「TAKANOME海底熟成 禄」に合うグラス

 

 

関: かつては地元の日本酒とその土地の郷土料理を合わせるのが当たり前で、日本酒と食事のペアリングという概念自体が存在しませんでした。しかし、輸送が発達し、国内外からさまざまな食材が入ってくるようになり、日本の食卓は多国籍化しました。それに伴い、最近では少しずつ日本酒のペアリングという文化が浸透してきました。私も「この食事にはどんなお酒が合うの?」と質問されることが増えています。

 

田邉: 私は「この国のワインを日本で広めてください」という依頼をよく受けますが、現地で感動したワインでも、日本に帰国して食事が変わると同じ感動を再現するのは難しいんです。日本でフランスワインが深く理解されるようになったのは、現地で修業したフレンチシェフが、料理技術とともに文化的知識を持ち帰り、日本で腕を振るい始めたからです。イタリアワインが広がったのも、イタリアンレストランが増え、家庭でもパスタやピザが食べられるようになったからでしょう。ですから、酒を世界に広めたいのであれば、似たような食文化や食材がある地域にその酒を持ち込む方が近道となります。

 

関: 日本食(和食)は2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。2013年時点で日本国外の日本食レストランは約55,000軒でしたが、2023年には約187,000軒に達しており、和食の職人やレストランが世界中で急増しています。和食の人気の高まりとともに、外国人シェフが日本の調理技術を習得し、その魅力を広めています。日本酒が世界に羽ばたくための土壌も、着実に耕されていると言えるでしょう。

 

 

田邉: 「TAKANOME」は、フルーティーで華やかな香りが特徴です。ペアリングにはフレッシュな果物を使った前菜がよく合います。例えば、桃のカプレーゼやイチジクと生ハムの盛り合わせなどが、酒のフルーティーな味わいと同調し、バランスの取れたペアリングを楽しめるでしょう。

 

TAKANOMEの香りを最大限に引き立てるためには、ワイングラスのように香りを閉じ込めないスリムなグラスが理想的です。特にリースリンググラスや、酸をバランス良く広げるグラスが適しています。冷やして飲むと、フルーツの香りが一層際立つため、812度の温度帯がベストです。

 

TAKANOME海底熟成 禄」は、シンプルな魚介料理との相性が抜群です。例えば、塩で味付けした魚介鍋やハマグリの酒蒸しなど、酒の塩味と魚介の旨みが絶妙にマッチします。特に、白身魚や貝類の滋味深い味わいが、酒の複雑な風味と見事に調和します。

 

酒器としては、意外に思われるかもしれませんが、もっきり用のストレートな日本酒グラスや、薄張りのグラスが適しています。香りを閉じ込めず、味わいを中心に楽しむために、1018度の温度帯が最適です。特に、人肌燗やぬる燗で飲むと、米の風味が一層引き立ち、深い味わいを楽しめます。

 

日本酒の素晴らしさとは

 

 

田邉: 日本酒は、食事とのペアリングが容易で、ハードルが低いのが大きな魅力です。もちろん、ワインのようにピンポイントで合わせる奥深いペアリングも可能で、その多様性が面白いですね。テクニックを駆使して奇想天外なペアリングや、意外な食材との組み合わせも時には楽しめますが、それが食文化として定着するのは難しい。しかし、日本酒は、居酒屋メニューや日本食、魚の塩焼きや出汁を使った料理など、和食の調理テクニックにうまく馴染みます。細かいことを気にしなくても、だいたいの料理に合わせて美味しくいただける。これは本当に素晴らしい点だと思います。

 

関: 手軽に試せて美味しい、さらに探求したくなれば「TAKANOME」のようなハイエンドの商品も楽しめる。これが今の日本酒の魅力だと思います。伝統を守りつつも、新しいアプローチを取り入れる姿勢が、今後の日本酒業界をさらに発展させるでしょう。今、日本酒は本当に面白い時期を迎えています。

 

 

 『TAKANOME 海底熟成 禄 2024 Edition』24年11月中旬より一般販売を開始

 

 

南伊豆のヒリゾ浜の海底に半年間、その後冷暗所で味を落ち着かせ、計2年間熟成させて誕生した『TAKANOME 海底熟成』。

11月中旬より一般販売を実施いたします。


販売スケジュール

■発売日時:2024年11月中旬予定
■販売場所:TAKANOME 公式オンラインショップ
■価格:¥38,500(税込・送料込) 
■アルコール度数:16% 
■内容量:720ml  
■製造元:はつもみぢ(山口県)

■海底熟成特設ページ
https://takanome-sake.com/pages/seabed-roku-2024

※ 全ての商品に「鷹ノ目 180ml」が付属します
※精米歩合は非公開です

 

鷹ノ目創業者 平野の「日本酒業界の熟成分野はまだ未開拓であるが、うまさの追求を考えたときに大きな可能性がある。」との想いからスタート。全ての生命の起源である「海」が吹き込んだ、味わいをご堪能ください。

  

Text: Tomomi Seki
Photo: Masaru Miura
Composition: Sachika Nagakane

 

 

 

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