日本料理の真髄を継承しつつ新たな美食の可能性を探る─『木の花』料理長・宮山裕伴

日本料理の真髄を継承しつつ新たな美食の可能性を探る─『木の花』料理長・宮山裕伴

国土が南北に長く、海・山・里から多様で豊かな自然の恵みがもたらされる日本。四季折々の新鮮な食材を用い、自然の美しさを繊細かつ味わい深く表現する日本料理は、「自然を尊ぶ」日本人の気質を表す伝統食として、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。はるか昔から受け継がれてきた技巧や精神を、どう咀嚼して次世代に継承していくのか。この秋、人気店の総料理長を四半世紀ぶりに引き継ぎ話題となっている『木の花』の宮山裕伴新料理長に、伝統文化の継承と、その心構えのほどをうかがった。

 

宮山裕伴/『木の花』料理長 1985年、栃木県生まれ。2004年より『木の花』にて料理人としてのキャリアをスタート。以後、『木の花』一筋に腕を磨き、2018年に副料理長に就任。総料理長の片腕として任を担いながら、自身も日本料理の研鑽を積む。202391日、開業以来25年間にわたり総料理長を務めた富田正己氏に代わり、『木の花』の新料理長に就任。

 

先代のこだわりや味を正しく受け継いでいく

JR横浜駅西口から出て真正面にそびえる横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズは、観光やビジネスの拠点として、ロビーやラウンジが常に人で賑わう地域のランドマーク的存在だ。外国人客も数多く利用するインターナショナルなホテルならではの多彩なレストランを併設するこのホテルで、開業25周年を迎えた今秋、日本料理『木の花』に新料理長が就任。上質な空間と品揃え豊富な美酒、厳選素材を用いた珠玉の会席料理でさらなる高みを目指す。


「『木の花』はホテルの開業と同時にオープンした日本料理店です。同じホテル内のフレンチ、中国料理、オールデイブッフェなどは代々料理長が変わっていますが、『木の花』だけは約四半世紀にわたって前料理長が腕を振るい、私が二代目を継がせていただきました。オープン当初から通ってくださるお客様もおられますので、期待に応えられるようプレッシャーをやる気に変え、先代から引き継いだ『木の花』の味をきちんとお出しするのが私に課せられた最初の使命と思っています」

聞けば、先代が『木の花』の料理長に就任したのが38歳。そして宮山新料理長も現在38歳。さらには先代の師匠が親方として独り立ちしたのが38歳と、奇遇な縁を、穏やかな面持ちで語ってくれた宮山新料理長。和食の料理人を目指し、最初に入った『木の花』で修業を重ねること19年。この店一筋で研鑽を重ねた宮山新料理長の頭の中には、そんな先代から言われていた「ある言葉」が常にあるという。

「当たり前のように思われるかもしれませんが、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ内の日本料理店である『木の花』でお出しする料理は、『和食でなければいけない』ということを言われていました。例えば、和食店のなかにはフカヒレを用いた料理を出すお店もありますが、フカヒレを美味しく食べたいのであれば、プロフェッショナルである中華のお店に行ったほうが美味しく食べられる。ホテル内にさまざまなジャンルのレストランがあるなかで、『木の花』を選んで来てくださるお客様は真の日本料理を求めていらしてくださるわけですから、そこは絶対にブレてはいけないと。先代が折に触れて語っていたこのことだけは、今後も守り続けていかなければと思っています」



▲ホテルの8階ワンフロアを占める日本料理『木の花』は、20229月に内装をリニューアル。新設された鉄板焼きの個室のほか、洋個室化された上質な空間で、季節の食材にこだわった会席料理が楽しめる。

 

▲店のエントランスには最高級の美酒が並ぶセラーが鎮座。希少価値の高いブランド焼酎や世界中の各種ワイン、さらに全国から厳選された日本酒が並び、『TAKANOME』もそのうちの1本にラインナップされている。

 

日本料理の魅力を季節感や伝統行事とともに伝えたい

日本料理の真髄を追い求める上で欠かせないものに「四季の表現と季節ごとの年中行事との関わり」があると、宮山新料理長は続ける。「走り・旬・名残」や「出会いもの」と呼ばれる和食ならではの季節感や、五節句のお供えなどに見る風習にこそ、日本料理の表現の豊かさと新たな可能性を見出すヒントがあるという。

「今はスーパーなどで年中さまざまな食材が揃いますけれど、やはり季節や時期によって美味しさは違ってきます。和食ではひとつの食材でも、出始めや初物を指す『走り』、最も美味しい『旬』、時期が終わり頃の『名残』と区別があり、それぞれの味わいを引き出す調理法があります。例えば、鱧は6月の梅雨の水を飲んで美味しくなると言われますが、9月頃に海水の温度が下がる頃には脂が乗り、また違う美味しさになる。『出会いもの』は、例えばぶり大根や鱧松茸のように、海・山・里で採れる食材を組み合わせることで、お互いの味がよりいっそう引き立ってくる。そういった日本ならではの美味しさを、繊細な味付けや盛り付けでお客様にお出しするのも、我々日本料理に携わる者の役目だと思っています。新しい季節のコースを組み立てるときには、そういったものを積極的に取り入れ、お客様に最も美味しい味覚体験をしていただけるようにしています」

折しも『TAKANOME』とのペアリングで合う料理として作っていただいた「菊畑」と名付けた前菜も、秋の節句行事「重陽の節句」にちなんだひと皿だ。

「『木の花』では節句行事をとても大事にしています。五節句の中で9月9日は重陽の節句と言われており『着せ綿の行事』があります。9月9日の前日に菊の花に着せ綿をかぶせて1日置き、翌日に菊の香りと夜露が染みた綿で身体を拭って長寿を願う行事です。桃の節句や端午の節句はよく知られていますけれど、重陽の節句をご存じの方はそんなに多くないですよね。日本の文化に根ざした季節の行事が薄れゆく中で、節句を表現した『木の花』の料理で、少しでも季節感を感じていただけたら嬉しいと思っています

 

▲店に揃える日本酒は、宮山料理長自らもテイスティングし、味わいを確かめる。『TAKANOME』の印象は「すべての料理との相性が良いと思います。今回お出しした前菜のほかにも、白身の魚のお造りにも合いそうですね」と太鼓判。

 

▲『TAKANOME』とペアリングした「菊畑」と名付けられた前菜4種。レモンを菊の花に見立てた器に盛り付けられ、重陽の節句にちなんで菊の花と着せ綿が載せられている。四方に広がる菊の葉の天ぷらとともにいただく。

 

和食と日本酒のマリアージュに可能性を感じて

そんな宮山新料理長が生み出す渾身の日本料理の数々には、さらなるうまさを引き出す名脇役として食中酒の存在も欠かせない。『木の花』のセラーには世界の美酒がずらりと並び、『TAKANOME』もそのなかの一本としてセレクトされている。

『TAKANOME』は、飲んだ瞬間に『うまい!』と思わず声が漏れました。今までに感じたことのないような米のうまみと上品な香り、記憶に残る味わいがあります。さらに温度によっていろいろな表情をみせてたくさんの可能性をあると感じましたので、この4種類の前菜を用意しました。ひとつめは、爽やかな酸味と相性がいい鯖の松前寿司。3年熟成させた赤酢の酢飯を使用し、脂の乗った鯖の酢〆に辛子と山口県の鴨頭葱を細かく叩いたものを中に入れています。同じように酒の酸味と合わせた2つめは、北海道の北貴貝の炙りと新イクラに土佐酢のゼリーをかけたもの。3つめの菱蟹と数の子の共味噌和えは、シャクシャクとした食感が特徴です。最後は8時間ぐらいコトコトと煮た鮎の煮浸し。骨まで柔らかくして形も綺麗に炊くというのが料理人の腕の見せ所でもあり、美味しさのポイントです」

ほかにも『TAKANOME』が山口県で生まれた日本酒だと聞くと「同じ土地のものをあわせてもいいかもしれません。例えば山口県の西京鱧を炭炙りにして梅醤油でいただく、または、下関の虎河豚のてっさをカボス醤油でいただくなど」と、次々とペアリングのアイディアが飛び出し、それらのコツは「酸味と白身」にあるとも語る。日頃から日本各地の食材の産地へも積極的に出向くという宮山新料理長は、11月には偶然にも山口県にも出向く予定があるとか。「それが今からとても楽しみなんですよ」と、新たな美食を探求する料理人からは、ワクワクする気持ちを抑えられない冒険者のような爽やかな笑みがこぼれた。

 

▲「四季のある日本に生まれた喜びを、日本料理を通じて伝えていきたい」と力説する宮山新料理長。「季節や草花との関わりが深い日本ならではの節句行事を、誂えや器、盛り付けにさりげなく登場させて次世代に伝えることも、日本文化の継承につながると信じています」

 

レストランインフォメーション

日本料理『木の花』
住所:神奈川県横浜市西区北幸1−3−23
横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ

営業時間:
昼食 月〜金11:30〜16:00/土日祝11:00〜16:30
夕食 月〜土17:30〜22:00/日祝17:30〜21:00
定休日:無休(天ぷらカウンターのみ月、火は定休日)


TEL:045-411-1188
(レストラン総合予約 10:00〜19:00)


HP:木の花公式サイト

 

宮山新料理長 お披露目特別会席

2023年10月30日(月)まで、「<神無月>〜宮山新料理長 お披露目特別会席〜まつたけと秋の味覚」と題した、新料理長のお披露目を兼ねた特別会席を開催。開業から25年で築き上げた『木の花』の味を受け継ぎながら、秋を代表する松茸をメインに、新料理長が新たな発想で手掛ける料理が供される。

 

 

TAKANOME 火入れ


「既成概念にとらわれない、うまさのみの追求」を掲げる「TAKANOME」から、10月18日、日本文化の美意識と世界の料理とのさらなる共鳴を目指した新商品「TAKANOME 火入れ」が新発売。

フルーティな香味・風味や繊細なテクスチャーはそのままに、火入れによりさらにコクのある味わいが実現した「火入れ」。和洋中を問わず、様々な料理との相性が際立つ味わいに仕上がった渾身の一本を、ぜひ味わってほしい。

特設ページはこちら

 

 

TAKANOME 


F1のレーシングカーを作るとき、コストを考えながらマシンを作ったりはしない。とにかく速さのみを求めて、その次代の最高傑作を創造する。TAKANOME(鷹ノ目)の開発も、いわばレーシングカーを作るのと同じこと。「うまさ」のみを追求する信念のもと、幾度にも及ぶ試行錯誤の上で、極上の日本酒が完成した。


<販売日>原料の米作りから製品のラベル貼りまで、全て「手作業」によって行っているため、生産量が限られています。ご迷惑をおかけしますが、週に一度のみ(毎週水曜21時〜)、数量限定で販売いたします。

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Text:Satoko Hatakeyama
Photos:Shinji Abe
Composition:Sachika Nagakane

 

 

 

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