纏いを突き詰める パリ・オートクチュール・ファッションウィーク唯一の日本人ファッションデザイナー・中里唯馬
2017年6月、パリ・オートクチュール・ファッションウィーク公式ゲストデザイナーのひとりに選ばれ、コレクションを発表した中里唯馬氏。
それは、日本人として史上2人目、森英恵氏以来12年ぶりの快挙だった。現在も、コレクションを発表し続け、毎回大きな注目を浴びている。
そんな中里氏はどのような思考を持ち、デザインに取り組んでいるのだろうか。
▲中里唯馬/ファッションデザイナー
1985年、東京生まれ。ベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーを日本人最年少で卒業。2009年に自身の名を冠したブランド「YUIMA NAKAZATO 」を設立。ブラック・アイド・ピーズやレディー・ガガ等のアーティストの衣装を手掛けたことでも知られる
人の個性を可視化する“1点もの”へのこだわり
YUIMA NAKAZATOは、“全ての人に一点ものの衣服を”という哲学を掲げるブランドだ。
中里氏はなぜそのような思いに至ったのか、その背景を聞いた。
体型や好み、大きく言えば人生まで、1人ひとりが違うのは当たり前のことだが、一方で世の中に多く出回っている服のほとんどは、同じデザインのものが大量に生産されている状況だ。
服をデザインしていくなかでそこに違和感を覚えていたという中里氏に、ある海外アーティストから衣装を作ってほしいというオーダーがあった。
「まだ20代前半で、初めていただいた大きな仕事でした。会ったことがない方でしたが、経歴などを調べて、キャラクターを想像しながら、デザインしたものをその方に届けたら非常に喜んでくださって。
その衣装を着て、堂々とステージに立つ姿を見ることができたのは作り手としてもすごく嬉しいできごとでしたし、着る側も、きっと自分らしさを感じる服に出会う瞬間ってめったにないことだと思うんです。そうやって人に合わせて作っていくのが究極であり、理想なのだと実感しました」
そこからは、決められた規格に多様な個性が押し込まれてしまっている現状を、服のデザインで解放できないだろうかとより深く考えるようになったという。
オーダーメイドを受ける際には相手との対話から、どんな服を着たいのかを聞き出し、心のなかを可視化していく。そのためには、さまざまな素材や技術について知っておく必要がある。
「素材や縫製などで個性を出せないか、常にアンテナを張っています。最先端の技術についてもサイエンティストや建築家、アーティストと交流し、また伝統工芸の職人のもとへ足を運び先人の知恵や、受け継がれてきた技術を見せていただいて、思いつく限り学ぶようになりました」
日本の伝統工芸と最先端テクノロジーを融合
とりわけ、日本の伝統工芸や技術に目を向けるようになったのは、学生時代の気づきに所以があったのだそうだ。
「ヨーロッパでファッションを学ぶなかで、自分のバックグラウンドをどう表現したらいいんだろうかと追求する機会があって。日本に帰ってきて少し見渡すと、着物や織物の伝統的なものはもちろん、最先端の技術を使った、ユニークな素材もたくさんあると気づきました。この両方があることを、当たり前のように思っていましたが、世界的にはとても珍しいことなんです。工場で端切れを分けていただいて、ヨーロッパに持って帰ると、『この素材はなに』、『これどこで買えるの』と、感嘆の声があがりました。先生はパリで活躍する一流のデザイナーでもあるので、そんなすごい人物が驚くような素材が身の回りにあることは、なんてラッキーなんだろうと思いました」
また、素材だけではなく、様々な体型に合わせられるという部分では、日本の着物の考え方に着目しているそうだ。
「日本の着物は、7枚の長方形が組み合わさってできたもの。長方形は人間の体とは相反する形をして実は誰にもフィットしないんですよね。余白が大きいので、誰にも合わないけど、誰にでも合う。一西洋のテーラリングは布にカーブを描いて体に沿わせていくっていう考え方ですから、全く違う体へのアプローチが着物にあります。人間の体にどう向き合っていくのか、この着物の哲学みたいなものを探求するところに結構ヒントがあるのかな、なんて思ったりもするんです」
現在は西陣織や江戸切子などの伝統工芸を取り入れながら、最先端の印刷技術やシステムを駆使して、我々が見たことのないファッションを発信し続けている。
「後継者不足などの問題を抱える伝統工芸と、まだ一般に広まっていない最新技術を組み合わせることで、未来に継承していけるかもしれない、とアイデアにつながっていくんです」
常に何かを探求し、イノベーションを起こしていっているように見えるが、それを「ごく自然にやっている」と話す。何より自分が楽しいのだ、と。
環境問題解決へデザインで取り組む
幼少期から環境問題に関心があったといい、ファッションが与える環境負荷に対しても、デザイン面から改善を図れないかと長年にわたりさまざまな取り組みを行ってきた。
そのひとつがTYPE-1のプロダクトだ。
「人は、生まれてから死ぬまでの間に体型も価値観も変わっていきますが、一度完成した服は簡単には変えられません。もし衣服がもっと簡単に解体や修復できれば、もっと循環しやすくなるはずなんです」
TYPE-1は、針と糸を使わず、特殊な付属により衣服を組み立てられ、何度でも繰り返し素材同士のつけ外しができる。そのため劣化した部分のみを交換して使い続けるということも可能になる。
「針と糸で服を作るというのは2万年もの間変わっていません。シンプルな道具で瞬時に、丈夫に布同士を縫い合わせることができる素晴らしい発明です。一方でそれが重大な欠点でもあって、バラバラにしようとすると簡単にはできないんですね。TYPE-1はそこに挑戦しました。ただ、まだまだ道半ばで、よりよい方法は模索しています」
アフリカの現状を想いデザイナーとしてできることを
2023年春夏には、アフリカの使用済みの衣服からアップサイクルした新コレクションを発表している。
「いま、世界中の古着がアフリカのケニアへ流れていってしまって、その量は年々増え続けています。想像も絶するようなロークオリティの服が押し寄せ、衣服の山が街中にできている状況なんです」
昨年の10月にケニアを訪れ、その現実を目の当たりにし、大きな衝撃を受けたという。
「こんなに衣服があふれているのに、なぜ人類は服を作る必要があるのか」
現地の方と話す中で、思わず言葉に詰まってしまうような質問をされた。
「その問いに、ファッションデザイナーとしてこれから何ができるだろうか、といま考えています。考えるだけではなく、具体的にソリューションを探して、近い将来、ケニアの人たちと一緒に何か取り組めないかと模索しているところです」
また、ケニアは地球温暖化による気候変動で、深刻な干ばつ被害を受けているのも、大きなニュースになっている。
「そんななかで、生きるのに必死な状況の部族の方たちが、ビーズの装飾を手作りして身に纏っていて。ビーズの装飾って、別に暑さ、寒さを凌げるわけでもなく、喉の渇きが潤うわけでもなく、そんな状況でも人は纏いたいんだなと、すごく感動的な風景でした」
今回のコレクションはそこで受けたインスピレーションを、自分なりに表現したものでもあった。
社会的背景も汲みながら、自身の興味をモチベーション高く探求し続け、衣服へと昇華していく中里氏。ファッションデザインをするうえで最も大切にしている想いがある。
「哺乳類が生きていく上で大事なものとして『衣食住』がありますが、その中で『衣』は人間だけのものです。その人類に未来には、どんな社会があり何を纏えばいいのか、もしくは何を纏いたいのか。これを考え続けることが人生の目標であり、夢で、楽しさでもあるので、これからも突き詰めていきたいですね」
日本酒は好きで、出張でよく山形へ行くのですがお土産で購入しますね。
外食でも、家でも楽しんでいます。
TAKANOMEはワイングラスで飲んでみると香り高く、飲みやすいのでつい飲みすぎてしまいそうです。
TAKANOME
F1のレーシングカーを作るとき、コストを考えながら車を作ったりはしない。とにかく速さのみを求めてその時代の最高の車を作る。TAKANOME(鷹ノ目)の開発もいわばレーシングカーを作るかのようにとにかく「うまさ」のみを追求するとの信念のもと、幾度にも及ぶ試行錯誤の上で完成した、極上の日本酒。
<販売日>米作りからラベル貼りまで、全て「手作業」によって造っているため、生産量が限られています。ご迷惑をお掛けしますが、週に1度のみ(毎週水曜21時〜)数量限定で販売いたします。
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Text:Mihoko Matsui
Photo:Masaru Miura
Structure: Sachika Nagakane