『鷹ノ目』ストーリー  うまさの追求、その先にあるもの

『鷹ノ目』ストーリー  うまさの追求、その先にあるもの

2019年10月にリリースしたフラッグシップブランドの日本酒「鷹ノ目(TAKANOME)」。以来、口コミで徐々にその味わいやコンセプトが広まり、今では毎週水曜日の発売ごとに完売するようになった。

その開発の裏には、まだあまり語られていないストーリーがある。今回は、TAKANOME代表・平野晟也に、開発までの日々、またこの『鷹ノ目』に込められた真意を語ってもらった。

「日本酒は作品」クラウドファンディングでの失敗が気づきに

日本酒の魅力とともに、酒蔵の新規参入ができない、評価軸も作られていない、流通もできていないという日本酒業界の問題点にも気づいた平野が、日本酒ベンチャーForbulを立ち上げたのは2018年1月のこと。

感動を与えられる味わいの日本酒を製造するため、全国の酒蔵をめぐる中で『はつもみぢ』との共同開発にこぎつけた。

「私自身まだ日本酒に詳しくはなかったのですが、試作段階でとても良いものができたので、友人や家族にも飲んでほしいとクラウドファンディングで資金を集めました」


これまで世話になった方々に連絡をしたこともあり、400人以上の支援が集まり目標金額を達成した。

 

しかし、できあがったお酒を飲んで愕然とする。

 

それは試作品の感動的なうまさには到底届かない、納得のできない仕上がりのものだったのだ。試作品と同じレシピで同じ環境で作っているにも関わらず、こんなにも違ってしまうのか。


「飲むたびに違和感があり、ショックでした」


決して納得はできなかったが、配送の期限が迫っており、やむを得ず支援者に送付した。


「ベースは悪くないので、みんなはおいしいって言ってくれたけど、その時自分が求めていた感動の体験を提供できなかったことで、本当に後悔したと同時に、支援者の方々への申し訳なさ、私自身の不甲斐なさを感じました」

 

 同じ材料、同じ行程でも自然の中で育まれる日本酒は味が変化する。酒蔵と自分の間で、見えていない部分でのずれがあったのではないかと振り返る。


お酒は工業製品ではなく、作品ととらえるべきだった、とも。

 

 そこから半年以上はそのお酒の販売はやめた。


ただ、それでは事業が成り立たなくなってしまうため、出来がいいものは定価で、出来が悪いものは値段を下げ、少しずつマルシェなどのイベントで販売するようにした。


「お酒の出来が悪い時は、お客さまの反応もいまいちで、あまり売れない。ただ、出来がいいときは試飲をして『どこにも負けない味わい!』と自分でも感じます。そのときは飛ぶように売れていくんです」


多くの方々に飲んでもらう中で、あらゆる方からの『美味しい』という一言に自信を取り戻し、毎回安定した感動的な味わいの日本酒を作り、みんなに飲んでもらいたいと考えるようになった

仲間からの、もう一度やってみたら、という声も後押しになった。

そこからは酒蔵との戦いの日々が続いた。

 

味わいのレベルが達していないときは、酒造の社長に直接納得ができないことを伝えた。何度も何度も「品質を上げてほしい、味を安定させてほしい」と訴えた。


酒蔵と二人三脚となり、うまくなる方法を模索した


そして最後は製造責任者まで変わることに。数値の計測などから適切なタイミングを測り、また気候なども鑑みた細やかな気遣いのできる杜氏に代わったことで、これまで以上に品質が上がり、安定した味わいを造りだせるようになった。


それでも、お酒は生き物。時に品質が落ちることもある。だからこそ、品質がいいもののみを鷹ノ目として販売するようになった。一般では考えられないことだ。

 

 平野はこう語る。
「ワインであれば、その年の天候の変化によって葡萄の出来が変わります。それによって値段も変わるし、ワイナリーによっては販売しないところもある。日本酒もタンクによって味わいが変わるので、出来上がった味によって価格や販売方法を変えるべきなんです」

日本酒を舌で味わうお酒から、精神に刺激を受けるお酒、思考を生み出すお酒へ

こうした酒造りを通して平野は、造り手によって味が大きく変わる日本酒に対して、原材料や精米歩合などのスペックでお酒の価値が測られることに疑問を抱く。


ワインはその原料よりも造り手の想いが語られることが多い。


お酒の価値はスペックではないと確信し、精米歩合の数値で価格が変わる価値軸に対して疑問抱き、うまさにおいて適正な数値を編み出し、お客さまが情報に左右されず独自の感性で味わってほしいという想いで、精米歩合を非公開にした。


そうしたことで、特定名称酒として名乗れなくなり、日本酒のコンテストには出品できなくなった。


ただ、それでもやる必要があると思った。

 「業界で新たな価値軸を作らなければいけないのです」

 

良いアートにはレイヤーと呼ばれる余白があり、10人いれば10以上のとらえ方ができる。スペックを非公開にすることで、それぞれの感性で味を受け止められる「余白」ができる。その余白がうまさを味わう上で重要なんです。

 

また、日本酒の価格帯にも疑問を持った。
「料理に例えたら、同じ材料でも腕のいいシェフが経験や哲学をもって作る料理と素人が創ったものでは全く違うもの、違う価格になるはずが、日本酒ではなぜかそれがないんです」


そこが大きな問題だと感じた。
なぜこだわりを持った小さな酒蔵が大手の大量生産の酒蔵と同じ価格帯で戦わないといけないのか。


「こだわりをもった酒蔵ほど、値段をあげていかないといけないんです。そうじゃないとどんどん彼らがいなくなってしまう」


価格を含め個性を持った日本酒が増えていくことで、日本酒文化がもっと広がっていくはずだ。

 

日本酒を通して、文化の発展に貢献する。

 

これまでは日本酒の製造に必死で、そこしか見ていなかったが、自分たちとお客さまがハッピーになるための要素で何かが足りないと感じていた。


人生をかけてこの事業にかけていいのかぼんやりしている部分があった。


日々経営や他社の取り組みについて勉強をするなかで、成功しているブランドほど、社会や文化に貢献していると気づきました。例えば、Redbullといった企業は売り上げの3分の1をスポーツなどに支援しています。

それが企業のブランドイメージをあげると同時に、スポーツ産業に大いに貢献している側面があります。


海外のハイブランドも美術館を作ったり、アーティストコラボをしたり、あらゆるイベントを開いたりと、企業のマーケティング活動を通して、多大な文化の発展に貢献しています。


日本ではまだまだそういった企業は少ないのではないか。


それを『鷹ノ目』を通してやっていきたいという想いではじめたのがこのマガジンです。

まだまだですが、職人や文化を知ってもらう場になったり、ここから生まれる化学反応が、コラボレーションに発展するきっかけになったりしてほしいと思っています。そして職人やアーティストの方を支援する循環モデルができれば、非常にサステナブルなビジネスではないでしょうか」

 

人の心癒やし、経済を引っ張っていく文化の発展こそ、先進国として目指すべき姿

 文化で人の心がより豊かになってほしいと話す平野。なぜそこまで日本文化に思いを馳せるようになったのか。

 

 まず一つが、先進国において一番の問題は心の病だと思います。特に日本は戦後とにかく追いつけ追い越せの精神で、経済では大きな発展を遂げました。一般的に経済の発展は文化の発展にも繋がります。しかし実際は、生産性や効率化のみを追いかけ、人間の心を無視した成長をしてしまったように見えます。

 

日本には独自の文化が未だ多くあります。そういった文化を現代にアップデートさせ、日々、一生懸命に生きる現代人にリラックスできる環境を作りたいと思ってます。

 

そしてもう一つ、
「口惜しいんです。日本にたくさんいいものがあるというのを理解しているのに、欧米の文化に押されているという現実が。


表参道や銀座に立ち並んでいるハイブランドの店も、もともとは各国の伝統工芸から始まっているものが多いはずです。そう考えると、日本のものづくり企業は、ビジネスモデルを見出せずに、あそこに並べないのがもどかしい」

 

文化の発展は、人間がより幸せで人間らしい営みをする上で重要だと考えています。また、そのような文化が経済を引っ張っていく。そんな社会が作るのが、先進国として目指すべき姿はないでしょうか。


だから、我々はそんな未来をつくるために、人生をかけているのです」

 

今は海外にも目を向けている。

「日本酒を海外で本気で広めようとした人は今まで少なかったのではないかと思います。それに気づいる我々がやらないといけないという使命感を持っています。それはまたチャンスでもあり、楽しいところ。


実際に、今年は世界的なイベントで鷹ノ目を飲んでもらうことが決まっています。海外のセレブの方にも日本酒に触れてもらって魅力を体験してほしい。どういった反応があるかわかりませんが、何かしら驚かしたいなって」

 

最近は『鷹ノ目』を単なる日本酒のブランドではなく、日本文化のブランドだと考えていると話す。


「これまで話したことが実現したときに『日本酒は日本文化の結晶だ』という言葉が体現できるのではないかと思っています」

 

大空を舞う鷹のように高く広い視野を持ち、決して既成概念にとらわれない。
『鷹ノ目』のストーリーはまだ始まったばかりだ。

 

 

F1のレーシングカーを作るとき、コストを考えながら車を作ったりはしない。とにかく速さのみを求めてその時代の最高の車を作る。TAKANOME(鷹ノ目)の開発もいわばレーシングカーを作るかのようにとにかく「うまさ」のみを追求するとの信念のもと、幾度にも及ぶ試行錯誤の上で完成した、極上の日本酒。

<販売日>米作りからラベル貼りまで、全て「手作業」によって造っているため、生産量が限られています。ご迷惑をお掛けしますが、週に1度のみ(毎週水曜21時〜)数量限定で販売いたします。

飲む前に知って欲しい、鷹ノ目開発ストーリーはこちら

 

 

Text: Mihoko Matsui
Photo: Toru Hiraiwa
Structure: Sachika Nagakane

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