日本酒の魅力に突き動かされ、日本文化を世界へ伝う 和酒コーディネーター あおい有紀

日本酒の魅力に突き動かされ、日本文化を世界へ伝う 和酒コーディネーター あおい有紀

日本酒とのかかわり方はさまざまあるが、忘れてはならないのが、飲み手と造り手をつなぐ『伝え手』の存在だ。伝え手を通して、日本酒について知ることで、また味わいが深まり、日本酒をもっと好きになる。

そんな、日本酒を語る伝え手の立場から、企業のVIPへの日本酒セミナー講師や、『星のや東京』の日本酒宿泊プランプロデュースなど幅広く活動をしているあおい有紀氏に話を聞いた。

 あおい有紀 和酒コーディネーター、旅するフリーアナウンサー 航空会社勤務後、アナウンサーに転身。テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力、食事マナーなどの発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。旅、食、酒がライフワークで、これまで全国の酒蔵や田んぼに350回以上足を運び取材、地域の食ブランディング、メニュー開発やPRにもプロデューサーとして関わっている。
酒蔵ツアーや日本伝統工芸×日本酒イベント、様々な国籍の料理×日本酒ペアリング会などの企画・主催をはじめ、日本酒・焼酎コラム連載、全国各地での講演、セミナー講師、トークショーゲスト、シンポジウムファシリテーター、イベント司会多数。日本酒、梅酒、カクテルのコンテスト審査員も務める。
フジテレビ「情報プレゼンター とくダネ!」元 生CMパーソナリティ。
・日本酒造青年協議会認定 酒サムライ叙任
・日本酒蔵ツーリズム推進協議会 民間委員
・一般社団法人梅酒研究会 理事
・日本ワインマラニック協会 理事

 

何かに導かれるように日本酒が仕事に

好奇心が旺盛で20歳になった時から、お酒の世界にも興味を持ち、日本酒に限らずさまざまなお酒を楽しんでいたというあおい氏。

旅好きだったことで酒蔵を訪れ、造り手の方と会話する機会もあり、いつしか日本酒についてもっと知りたいと興味が深くなっていった。知れば知るほど、日本酒に魅了されていったが、知識が増える中で日本酒の消費量が徐々に減っている現状があることも見えてきた。

「こんなに素晴らしい日本酒、そして日本文化を国内外に伝えていきたいという思いが強くなっていきました」

アナウンサーという仕事柄、自分が伝えていくことは使命のようにも思えた。伝えるためには、日本の酒だけではなく、それにまつわる食のことやワインの知識なども必要だと感じ、アナウンサーの仕事の傍らで、いちだんと学びを深めていった。

「ワイン好きの人に日本酒を伝えるには、私自身がまずワインのことを知らないとその人たちの懐に飛び込めないなと…。そんな思いがあったんですよ」

一方的な思いだけでは押し付けになってしまう。伝えるには相手の想いを知ることもまた重要なのだ。

 

勉強を続けながら、日本酒の酒蔵に協力してもらい、料理とのペアリングを楽しむイベントを企画した。それが現在の仕事へとつながる起点となる。このイベントを知った人から、酒蔵ツアーのアテンドや日本酒にまつわる講演会の依頼が舞い込んだ。

日本酒関連の仕事が増えるとともに、人とのつながりが広がっていく。

「急速に周りの環境が変化していって。あなたは日本酒の仕事をやりなさい、という何か不思議な力に導かれるような感覚でした。そのまま流れに身を任せて、目の前のこと1つひとつに全力で取り組んでいきました」

 

多様だからこそ自由で楽しい

日本酒を語りだすと、あおい氏の顔はみるみるうちにほころび、そのなかに確かな愛情と熱意が伝わってくる。

「知人からは、まるで大好きな彼氏の話をしてるときみたいだねって言われるんです」

そこまで魅了される理由のひとつには、「日本酒の多様性」にあるという。

まず、日本酒というと刺身や寿司など和食のイメージを持ってしまうが、ここ10年ほどでその醸し方や味わいの種類は進化しており、もはや固定概念では語れないものになっているのだという。

「最近は江戸時代の酒造りを再現していたり、さらに遡って室町時代に確立した菩提酛(ぼだいもと)造りを中心にした酒蔵があったり。極限まで精米するお酒が生まれた一方で、ほとんどお米を磨かずに、お米の味わいを酒に生かした日本酒も増えています。また、環境への取り組みで、二酸化炭素排出量実質ゼロに成功している酒蔵もあります。それぞれが強いこだわりを持ってお酒を造るようになってきています」

昨年、クラフトサケブリュワリー協会が設立され、スパイスやハーブ、ホップなどで香り付けをして搾るというようなお酒も増えてきている。

日本酒とは名乗れないものだが、若い造り手が自由な発想でお酒造りに挑む象徴的なできごとでもある。

「そんなふうに造り手が自由になっているからこそ、飲むシーンもいろんなシチュエーションがあっていいと思うんですよ。アウトドアで、焚き火で燗酒を楽しむのもいいし、夏はBBQをしながら川の水で冷やして飲んでみるとか。もっと気軽に日本酒を楽しんでもらえたら」

 

温度によって味わいが変わるのも日本酒の大きな特徴であり魅力だ。

「私自身は特に燗酒が好きなんですよ。全身優しく包まれて五臓六腑に染み渡るような感覚があって。温度の違いまで含めるとペアリングのメニューの幅もぐっと広がります。私はカレーと日本酒を合わせたりしますし、熟成チーズと燗酒の相性も最高なんです。これまで、ナポリピッツアと日本酒の会を何度か企画したこともありますよ。ペアリングのセオリーは様々ありますが、一番簡単なコツは、お酒と料理の味わいの濃淡を合わせるイメージで選ぶといいですね。例えば、スッキリした味わいの本醸造や吟醸だったら、とうふや白身魚などを使ったさっぱりしたお料理に合わせる、とか。もちろん、その日の気分で好きなように楽しんでもらうのが一番ですね」

どんな日本酒を選ぶか、また何を合わせようか、その可能性は無限であり自由だ。そんなことを改めて気づかせてもらえた。

 

八百万の神とも繋がる日本酒文化

古くは口かみ酒から始まり、2000年以上の時を越えて、少しずつ進化し続けている日本酒。そういった歴史や文化についても広めていきたいともあおい氏は語る。

自然に育まれた湧き出る水、農業、郷土料理や器…日本酒を紐解けば紐解くほど、その地域と文化との深い繋がりが見えてくる。

「そういう意味で日本酒は、日本文化、ひいては日本そのものが凝縮されているものだと思っています」

 

 

また、お祭りや神事においても欠かせないものでもある。

日本人が一番大切にしてきた米と水。その米と水で仕込まれたのが、日本酒だ。

五穀豊穣のお祭りや祈願は、八百万の神様に対して、感謝の気持ちを持って全てを受け入れる考え方があった。

「私は、その日本人の精神を、日本酒を通して伝えていくことによって世界平和へ繋がるんじゃないか、とすら思っています」

日本酒の酒蔵でも、神棚を祀りしめ縄が張られていることも多いが、まさに酒造りは神事であり、日本酒は神に通じているとも考えているという。

 

「酒の語源ってご存知ですか。酒の『サ』は大和言葉で田の神様、稲の神様という意味があるんです。『ケ』は食べ物、飲み物という意味。まさに酒は田の神様の飲み物、食べ物という意味合いになるんですよね。桜の『サ』も同じで、『クラ』はその神様が宿る依り代となる場所のことを指すんですよ。お花見は本来、田や稲の神様と五穀豊穣を願い、共食の宴を張るという意味合いがあります。ぜひお花見には、お米から造られた日本酒で乾杯してほしいですね」

日本文化を象徴する日本酒を世界へ

世界に向けて、日本酒と日本文化を伝えていきたいという想いは、実際にかたちにもなってきている。近年では、インバウンド向けに、銀座界隈のおすすめの飲食店や、お土産用に購入ができる酒屋を多言語で情報発信し始めた。

「日本に観光で訪れている外国人の方に、せっかく日本にいるんだったら、その間に美味しい日本酒に触れて、それを買って帰ってもらいたい。機会があれば、その気に入ったお酒のある地域に足を運んでもらって、お土産を買い、それを自国でまた広めてもらえたら最高だなって。それそういう人たちに届く、発信をしていかないといけないと思っていたんです」

今後は、インバウンド向けにペアリング体験の場を作っていきたいと意欲も見せる。

最後に、こんな夢を語ってくれた。 

「日本酒の聖地を作りたいなって思っているんです。ワインだと、ロマネコンティーの特級畑に、世界中のワインファンが訪れるじゃないですか。同じように、日本酒ファンが憧れを持って訪れるような場所があってもいいと思うんです。 私はそれを兵庫県で実現できればなと。偶然にも私自身兵庫県出身でもあるのですが、日本酒生産量も、酒米の生産量もダントツのナンバーワン。特A地区と呼ばれる最高級の山田錦が栽培されている田んぼもある。皆さんが憧れを持って来ていただけるようなブランディングをしていけたらなって。日本酒の付加価値を高め、地域活性にも繋がり、地元の人達が誇りを持って次世代にバトンを渡していけるような取り組みができれば本望です」

 日本酒を軸に、ホテルのプレミアム宿泊プランのプロデュースやイベント企画、講演会、国内外の飲食店やホテルサービススタッフへの教育のほか、カードゲームの監修、自治体の地域ブランディングの協議会メンバーや新ご当地グルメの開発に関わるなど、幅広く活動の場が広がっているあおい氏。

日本酒の聖地を創り出すのも、そう遠くない未来なのかもしれない。

「私ね、日本酒のことを四六時中考えているんですが、たまに『これだ!』というアイデアが思い浮かんだ時には、心が震えて全身鳥肌が立つんですよ。特にここ十数年は酒縁で出会った方々が大半ですし、日本酒がこの世に無かったら、どんな人生送っていたんだろうって。私にとってはもはや無ければ生きていけない魂のような存在になっているようです(笑)」  

香りを楽しみたいときはグラスを使いますし、燗酒の時はぐい吞みを。その日の気分や料理に合わせて日本酒を選び、その味わいに合う酒器を選んでいますね。

今回はお気に入りの漆器を持ってきました。

人間国宝の室瀬和美さんの作品ですが、漆器はハレの日だけでなく、日常的に使ってほしいとおっしゃっていて。日本文化も、日本酒も、日々の暮らしの中で普通に親しんでいただけたら、これほどうれしいことはありません。

 
 以前、ミシュランの星付きフレンチレストランに鷹ノ目を持ち込ませてもらったことがあるのですが、 軽やかな酸味とふくよかな旨味を感じるので、ウニとキャビアが乗った一皿やチーズにもよく合いましたし、 魚料理は、オマール海老の甘味を引き立たせてくれて、心躍るペアリングを楽しめました。

 

TAKANOME

F1のレーシングカーを作るとき、コストを考えながら車を作ったりはしない。とにかく速さのみを求めてその時代の最高の車を作る。TAKANOME(鷹ノ目)の開発もいわばレーシングカーを作るかのようにとにかく「うまさ」のみを追求するとの信念のもと、幾度にも及ぶ試行錯誤の上で完成した、極上の日本酒。


<販売日>米作りからラベル貼りまで、全て「手作業」によって造っているため、生産量が限られています。ご迷惑をお掛けしますが、週に1度のみ(毎週水曜21時〜)数量限定で販売いたします。

飲む前に知って欲しい、鷹ノ目開発ストーリーはこちら
鷹ノ目の購入はこちら

 

Text:Mihoko Matsui
Photo:Masaru Miura
Structure: Sachika Nagakane

 

 

 

 

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