日本の伝統を継承し、革新を起こす。日本文化に携わる3人が見る未来
静岡県の老舗料亭「浮月楼」の観月会に、私たちForbulは「うまさ」のみを追求した最高品質の日本酒「鷹ノ目」を提供致しました。
当日は100名を超えるお客様がご来場。日本料理の粋を散りばめた特選懐石料理と日本酒「TAKANOME」が振る舞われました。その後、世界で活躍する文化人が共演し、奉納のパフォーマンスを披露。名月に見立てた金屏風に照らされた会場は、拍手に包まれました。
その席にて、お茶を振る舞ってくださった茶道家の井関 脩智(いせき のぶとし)さんと、花道家の辻 雄貴(つじ ゆうき)さんとForbul代表の平野が、今後の日本文化について対談いたしました。
井関 脩智:1946年東京の日本橋に生まれる。日本大学にて工業化学を専攻。東京都立工業奨励館にて高分子化学を研究する。三越文化センター裏千家茶道講師、青山塾舎茶花講師、日本橋高島屋セミナー茶道講師を務める。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では華道・茶道指導を担当。現在「星岡」主催。京都芸術大学東京学舎講師。
辻 雄貴氏:1983年 静岡県出身。株式会社辻雄貴空間研究所代表取締役。 2013年、フランスにて「世阿弥生誕650年 観阿弥生誕680年記念 フェール城能公演」の舞台美術を手がける。 2015年静岡とフランス、カンヌとの文化交流事「シズオカ×カンヌ×映画祭」では、アーティスティックディレクターに就任。 2016年、ニューヨーク カーネギーホール主催公演にていけばなを披露。カーネギーホール史上初の華道家となりました。
前衛的なことの中にも、日本の心を
井関:前衛的なことをやっていても、そこに日本の心がないとダメだと僕は思います。辻さんの生花には日本がありますね。苔であったり、菊との取り合わせであったり。
最近は日本酒といっても、チーズと一緒に日本酒を飲むなんていう若者が増えてきたじゃないですか。この発想の転換がすごいなぁと思いますね。実は昨日コンビニでチーズを買って、日本酒に合わせてみました。
辻:僕が井関先生を慕っている理由は、日本の伝統的なことを柔軟に若い方に翻訳して伝える力がすばらしいなと思っているんです。伝統的なことって、深いのですが、どうしても話が長くなってしまう。でも井関先生は時代の変遷とともに、僕らにわかりやすい形にして翻訳してくれる。
僕も頑固だから、生花をしている時は自分がこうしたいと思ったらしてしまうのですが、やればやるほど日本とは何かにぶつかります。
それは平野さんが今やっていることにもつながるのではないですか?
平野:そうですね。僕も革新的な日本酒を作ろうと思ってやってきました。でも日本の文化とは何かを考えた時に、どうしてもぶつかります。伝統と革新の掛け合わせこそが、人の心に響くのではないかと思ってはいるのですが。
井関:僕がすごいなぁと思った床飾りがあって、それは縄文の花器に花を入れて、軸は草間彌生さんというものでした。縄文土器に花を一輪入れてあるだけなんだけど、それがすごく似合っていたんです。
あれはいまだに話題に残る茶会でしたね。開催されたのは昔からある古い茶室でしたが、そこに合うものを作れる草間彌生さんもすごいなぁと思いました。
辻:縄文時代と弥生時代という洒落と、あと草間彌生さんの作品からなんとなく縄文の雰囲気を感じ取れる気がします。そういった物との取り合わせや関係性で空気感を伝えるのって、茶道の方に特化した発想な気がします。
日本を諦めることも必要
平野:僕はもっと海外の方にも我々の日本酒を知ってもらいたいなと思っているのですが、それをやっていくために、井関さんは何が必要だと思いますか?
井関:今回「浮月楼」の観月会でご一緒した陶芸家の道川さんなんかは、日本を諦めたんだと思いましたね。日本で個展をすることを諦めた。道川さんは観客の前で陶芸を作るパフォーマンスをしていますが、そういったものは日本の本当に陶芸を好きな人たちは喜ばないでしょう。けれども海外だと喜ばれる。それは発想の転換だと思います。
▲陶芸家 道川省三氏
▲観月会では、道川氏が作った作品に、華道家 辻 雄貴氏が花を活けるパフォーマンスが行われた。
平野:海外の方向けにアレンジをしたということですか?
井関:アレンジというか、やり方を変えたんでしょうね。日本ではバカにされるようなことをやってしまおうと。
日本画の千住博さんなんかは、絵の具を上からふわぁと上から垂らしたり、吹き付けたりするんだけど、そんなの日本でやったらけちょんけちょんだと思います。
ところが海外でそれをやり、戸外の湖で展覧会をした。湖のさざ波があるからそこに絵が映るんだけど、それがすごく良かったんです。
平野:僕たちも既成概念に囚われない日本酒を目指していて、時々変な目で見られることもあります。僕たちは高付加価値な市場を開拓しなければ、日本酒の未来はないと考えていて、1万5400円の鷹ノ目を販売しています。
それが国内のみならず海外にも受け入れられ、喜んでくれている。つまり、自信を持って発信をしていくことがだいじなのでしょうか。
井関:そうそう。逆輸入ですよ。この頃は。日本人も変わってきたと思いますけどね。昔とは違います。食べ物も違うし。
辻:「浮月楼」も時代が変わってきましたね。若い層が入ってきて、いろいろな提案が受け入れてもらいやすくなった気がしています。
日本の文化に、囚われてはいけない
井関:茶道の集大成である「お茶事」(おちゃじ)は、客に合った酒や料理でもてなすものなんです。僕の知り合いなんかは辛めのシャンパンとビール、そして小鰭の寿司が好き。だから僕もその時はシャンパンを用意しました。
後日その知り合いが「僕の好きなシャンパンはこれです」と送ってきたんですが、飲んだら本当に辛口で。確かにこれなら小鰭の寿司が合うなと思いましたね。シャンパンでも寿司が合うんだと知りました。やっぱりいろんなものを食べないとなと、改めて思わされましたね。
平野:お茶事といっても、日本の文化に囚われず、シャンパンを出しても良いんですね?
井関:むしろ囚われたらダメだと思いますね。温故知新という言葉があって、古きを温ね新しきを知るという意味です。古いものは古いもので基礎を勉強した上で、新しいものをやって行かないとダメです。
井関:それをやったのが千利休と魯山人(ろさんじん)。魯山人なんかはね、ビールが大好き。小瓶を半ダース毎日飲むのが楽しみだったそうです。彼は5時になるとぴたっと仕事をやめる。僕なんかもそうですが仕事が詰まっていたら夜中までやってしまうでしょう。でも彼は違うんです。5時にピタッとやめてひとっ風呂浴びて、それからゆっくりとおいしいものを食べながらビールを半ダース飲む。それが自分の生きがい、そのために生きてるんだ、そのために仕事をしてるんだというモットーがあって、それで一生通してしまったんです。すごいでしょう。
魯山人は「器は料理の着物」と言っていて、この料理にはこの器というこだわりがあり、最終的には自分で作ってしまいましたね。彼のすごいところは一流の職人を自分の弟子に置いていたんです。織部焼きの一流、備前焼の一流。そして作らせて最後に自分の「ロ」という文字を入れて、売ってしまう。最後に「ロ」という文字を入れるか入れないかを見定める時の、審美眼が素晴らしかったそうですね。
千利休も料理人が2人いたそうです。
だから平野さんも、日本料理に囚われない頭のやわらかい料理人を探して、日本酒に合う料理を作っていってはどうでしょうか。
平野:鷹ノ目を使って新しい料理との組み合わせを創造していく。それは確かに楽しそうですね。ぜひ今後やってみたいと思います。
本日はお二人とも長い時間、ありがとうございました。
観月会の様子をまとめた動画もぜひ、ご覧ください。