まるで生き物のように。そばに佇む漆芸 中田真裕氏

まるで生き物のように。そばに佇む漆芸 中田真裕氏

常識に囚われず、革新を起こし続けてきた一流たちのスピリットを発信し、さらなる『文化の発展に貢献したい』との思いで情報を発信するTAKANOME MAGAZINE。

今回は、漆芸の作品で世界的にも認められている中田真裕氏のアトリエを訪れた。

漆の木の樹液を器などに塗り重ねて、装飾をほどこす漆工芸。そのなかでも香川漆芸は、タイやミャンマーから伝わり、江戸末期に香川県で独自の発展を遂げた。ほかにはない「香川の3技法」が確立されているのが特徴だ。
中田氏はその技法のひとつである、刃物で彫った漆の表面に色漆を充填し、磨いて整える蒟醤(きんま)を主に用いた作品づくりを行っている。

1冊の本との出逢いが導いた運命

理系の大学を卒業後、製薬会社に就職。6年間働いていたが、誰がやっても同じ品質を求められる仕事に、自分がやる意味があるのかと疑問があった。65歳までという定年退職があることにも漠然とした怖さを感じていた。

それに加えて転勤が続き「一生続けられて、どこでもできる仕事はないか」といつしか考えるようになっていた。

そんななか香川県に引っ越すことになり、香川県のことを調べていた際に図書館でたまたま手に取ったのが香川漆芸の本だった。

「一行目に香川漆芸は篆刻(てんこく:石や木に印を彫ること)の技術から発展したとあって。書道を習っていたので、いつか篆刻をしたいという想いがあり運命を感じました」

さらに本を読み進めていくうちに漆のイメージがどんどん変わっていった。それまで黒や赤のイメージが強かったが、青やピンク、黄色とカラフルな色があることや、繊細なレリーフ模様の作品があることを知った。
「これはどうやって作るのだろうか、と考えるとものすごく興味がわいたんです」。

一度決めたら後先はあまり考えずにとにかくやってみよう、という性格。後継者育成のための施設である香川県漆芸研究所に飛び込んだ。
「人間国宝ってどんな生活なのかな、くらいの気持ち。そのときは漆芸を“しつげい”と読むことすら知りませんでした」。

 漆のことはもちろん、デザインの勉強をしたことも無かった。ただ、長年習っていた書道で、見て真似る力はついていたようで「やってみると意外とできる」ということも多かった。粗密と緩急があることもどことなく書道に通じるものを感じて、続けていける気がした。

そうして5年をかけて基礎を学んだころにはすっかり香川漆芸の魅力に嵌まってしまった。探求心も芽生え、普段使いの工芸品よりも作品からエネルギーを与えられるような大きなものを作りたいという想いが増す。

「見る人に模様に抱かれているような気持ちを体感してほしいと思ったんです」。

独立に向けた準備のため石川県に移り住み、金沢卯辰山工芸工房に入所した。21世紀美術館を有する金沢市は、ユネスコ・クラフト創造都市にも認定され、最先端のアートに触れられる機会が多く、創作活動に集中しやすい環境が整っている。

そこで思い描いていた、抱きつきたくなるような大きさの作品を創作。それが「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2019」のファイナリストに選出されたのだ。そのことは大きな自信となり、今の作品づくりへとつながっている。

賞は海外からの注目を集めるきっかけにもなった。漆の木はアジア圏に広く生息しているため、特にヨーロッパなどでは、漆そのものに馴染みがない。先入観なく評価をしてもらえるうえ、作品と共に漆の文化を伝えられるという役割も楽しみの一つだと話してくれた。

 

かたちのないものを表現できる蒟醤(きんま)

中田氏は「子守をしているような感覚」だという作品づくりについて聞くと途方もない作業に思える。

まず、石膏などで作った型に、麻の布を1枚ずつ重ねながら、白玉粉と漆を混ぜた糊で固め、珪藻土などを用いて土台をつくる。その表面を漆で塗り重ね、彫刻刀で彫り、色漆を埋めて、炭でまんべんなく研ぎ磨く。

この彫って塗って磨くという作業を繰り返すうちにできる色の重なりが模様になって表れる。彫るといってもごく薄く、0.5㎜ほどを40層で埋めていく。炭はどんどん目が細かいものに変えてゆき、最後は自分の指紋で磨きあげて鏡のように仕上げる。漆を乾かす間にも温度や湿度を細かく管理する気の抜けない作業。ひとつの作品が完成するまでには4~6か月はかかるそうだ。

「あと40年くらい頑張っても、一生で200個つくれるかどうかかな」

 

▲麻布を重ね合わせて固めた、作品の土台部分

ただ、時間をかけて手を動かし続ける技法だからこそ、表現したいものに合っているのだという。

「もともと煙や炎など一目で捉えられないものを形にしたいという気持ちがあって。それには1日で描いた絵よりも、何日も続く作業のなかで自分の感情や状況での変化が反映される蒟醤があっているんです。同じことを考えていても、毎回出来上がるものは違ってきます」

 

▲専用の木炭で磨いていく。炭の職人も減っているのだとか

作品に込めるイメージはさまざまだが、確実に自分が経験した記憶で、これは熱を持って人に話したい、というものを表している。

習っていたコンテンポラリーダンスでうまくできなかったワンシーンや、散歩の時に見かけた鳥が一生懸命に飛ぶ姿、最近は金沢の雷も心に残りイメージに取り入れている。

その表現方法にも特徴がある。
「色では黄色にこだわりがあります。顔料が重くて沈殿しやすいので、層がより複雑に絡み合うんです。色漆を何層も重ねたときに、自分の思いもよらない模様になったり、すごくきれいな色合いになったりします。それが作品をつくるうえでの喜びでもありますね」

 

計算できない色漆の変化は、作品がまるで生きているかのようなエネルギーを纏い、見るたびに違った印象を与える。

「いつもそばに 寄り添うものとして、毎日新しい発見をしてほしいと思っています。今見てもらって感じたことは、また未来で見てもらうと変化するのではないでしょうか。漆器って古いものでは9,000年前のものが残っているんです。私の作品を100年後、200年後に見た人たちがどう感じるのか。そこからまた新しいコミュニケーションが生まれてほしいですね」

 

▲中田真裕 1982年、北海道生まれ。日本工芸会正会員。2017年に香川県漆芸研究所を修了後、2018に金沢卯辰山工芸工房へ入所。『アートフェア東京2019』や『Milan Design Week 2019 Fuori Salone -Design Language-』へ出展。LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2019 ファイナリスト。 

Information
宿す神秘-工芸の表現から- 
塚田美登里・中田真裕 二人展

会期 2022/4/20(水)〜5/1(日)
時間 10:00〜18:00(日祝は17:00まで)月曜日休廊
場所 ギャラリーNOW 〒930-0944 富山県富山市開85
TEL/FAX  076-422-5002

 

 

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Text: Mihoko Matsui
Photo: Rui Izuchi
Structure: Sachika Nagakane

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